東京地方裁判所 昭和27年(モ)8247号 判決
当裁判所が債権者(被申立人)債務者(申立人等外一名)間の昭和二十七年(ヨ)第三五八九号仮処分申請事件につき昭和二十七年七月二十四日なした仮処分決定の中申立人等と被申立人に関する主文第三項の部分を次の通り変更する。
債権者の別紙<省略>第二目録及図面記載の土地の中斜線部分に対する占有を解き債権者の委任する東京地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。
執行吏は現状を変更しないことを条件として債務者等(本件申立人等)にその使用を許さねばならない。
債権者は右土地を債務者等に(本件申立人等に)使用せしめねばならない。
債務者等(本件申立人等)は右土地上に新に建物其他工作物を築造してはならない。
債務者等(本件申立人等)は別紙第二目録及図面記載の土地の中其余の部分に立入り若は債権者の使用を妨害してはならない。
執行吏はその保管にかかることを適当の方法で公示しなければならない。
申立費用は三分しその一を申立人等その余を被申立人の負担とする。
この判決は主文第一項に限り仮りに執行することができる。
二、事 実
申立人等訴訟代理人は右決定の中申立人等に関する主文第三項の部分を保証を条件として取消す旨の判決を求め、その申立理由を次の通り述べた。
被申立人は申立人等外一名を債務者として当庁に仮処分申請をなし当庁昭和二十七年(ヨ)第三五八九号事件として昭和二十七年七月二十四日債務者等に対し別紙第一目録記載の土地及別紙第三目録記載の建物に対する占有移転禁止、別紙第二目録記載の土地に対する立入及使用妨害禁止の仮処分決定がなされこれが執行を受けた。
しかしながら右第一目録記載の土地上に存在した右第三目録記載の建物は区画整理計画に基いて東京都に於て昭和二十七年九月二日より行政代執行法に基き右第二目録記載及図面斜線部分の土地上に左記の通り移築せられた。
占有者 移転前建物坪数 移転後建物坪数
趙奉甲 四九坪一八 二三坪八七
中島新吉 九坪五〇 七坪五〇
大林文子 一〇坪五〇 七坪五〇
佐藤由蔵 二坪二五 二坪二五
鈴木あき 一八坪〇〇 六坪四四
林有鳳 一二坪八〇 五坪五九
増田みよ 二二坪〇〇 四坪〇〇
移転前の建物敷地坪数約百六十一坪四合五勺
移転後の建物敷地坪数約 九十三坪四合二勺
而して右第三目録記載の建物は申立人等に於て現状を変更しないことを条件としてその使用を許されていたのであるが、右建物が第二目録記載及図面斜線部分の土地に移築された結果、右土地は仮処分により立入及妨害禁止を命ぜられているため仮処分法上は現実に建物を使用することが出来ない状態になつた。
而して申立人等は右建物に於て従前より居住営業等をなし来つたがこれが出来ないことになると生活上重大問題が生ずるので、保証を条件として右仮処分決定の中右第二目録記載土地に立入、使用妨害禁止の部分に限り取消の判決を求める。<立証省略>
被申立人訴訟代理人は右申立却下の判決を求め、申立人等の申立理由に対する答弁を次の通り述べた。
申立人等の申立理由の中申立人主張のような仮処分決定のありたること、右第三目録記載の建物について東京都に於て行政代執行をなし大部分完了していること、右行政代執行が完了した暁には申立人等が第二目録記載の土地について立入及使用妨害禁止されているため第三目録記載の建物を使用することが出来なくなること、行政代執行前に申立人等が第三目録記載の建物に於て各営業していたことは認める。その余の事実は否認する。
申立人鈴木を除く他の者は住民登録してないから他区に住居を有すること明らかであり、又申立人趙、同大林、同佐藤、同林等は配給登録を墨田区にしてない。
而して申立人等は本件土地以外に住居し得る家屋があり、店舗及資産も有するのであるから、本件土地に立入らないでも何等生活に困らないのである。
申立人増田の如きは不法建築として除却すべきことを命ぜられているから、第二目録記載の土地に移転することは出来ない。又申立人趙の増築部分については除却を命ぜられているから換地に移築することは出来ない。その他の建物についても相当減坪されて移築されている。
被申立人は第二目録記載の土地上に鉄筋コンクリート三階建の店舗、事務所兼住居を建築し山本産業株式会社を設立して右建物に於て百貨店営業を経営しようと準備中で右建物の建築が遅れるとこれにより蒙る損害は甚大で申立人の損害とその比にならない。
次に申立人等は昭和二十七年十月二十三日頃行政代執行により第二目録の土地上に移築されて以来本件仮処分命令に違反して第二目録の土地を使用しているのであるから仮処分決定を取消す必要はない。よつて本件申立却下の判決を求める。<立証省略>
三、理 由
申立人等主張のような仮処分決定及その執行のありたること、第三目録記載の建物について東京都に於て行政代執行をなし大部分完了していること、行政代執行が完了した暁には申立人等が第二目録記載の土地について立入及使用妨害禁止されているため、第三目録記載の建物を使用することが出来なくなること、行政代執行前に申立人等が第三目録記載の建物に於て各自営業をしていたことについては当事者間に争がない。
申立人等は本件申立に於て特別事情による仮処分決定一部の取消申立の標題を付けているが、その申立理由によると仮処分理由の事情の変更を主張し事情変更を理由としている。この点は日常の取扱に於て他の事件に於て見ても仮処分取消について申立人に於て特別事情による取消申立と事情変更による取消申立の区別が充分理解されていない結果と思考する。而してこのような場合何れもその目的は仮処分の取消を求めているのであるから、本件申立を事情変更による取消申立事件として取扱うも違法ではないと思考する。よつて事情変更の存否について判断する。
東京都に於て実施中の東京都特別都市計画の区画整理による換地予定地の使用関係は換地処分が確定し、効力が生ずる迄の間の暫定的処置として土地所有権は従前の土地について存在し、換地予定地には未だ所有権が移転しないけれど、従前の土地上には多くの場合建物が存在するので、この建物を換地処分確定の時直に移転若は撤去することは至難なことであるから、これを円滑にその事前に順次移転若は撤去せしめることを期するため特に認めたものであつて、特別都市計画法第十四条が換地予定地を指定したときは、その通知を受けた土地所有者及関係者は通知を受けた翌日より換地処分が効力を生ずる迄、換地予定地について従前の土地に存する権利の内容たる使用収益をなすことが出来て従前の土地についてはその使用収益をなすことが出来ないと規定したことによりこれを知り得るのである。
即ち特別法上の権利なき使用収益権、権利ある使用収益禁止である。そして換地が確定すると効力が生じ換地予定地は換地となり、換地は従前の土地と看做されるのである。従つて換地予定地は右立法の趣旨に添つて使用さるべきであろうと思考する。
而して換地予定地が指定通知され、従前の土地上に建物が存在するときはその建物の敷地は通知のありたる日の翌日より土地使用を禁止されることになるから、建物の移転命令若は撤去命令がなく共除却するか換地予定地に移転しなければならないことになり、次に換地に移転するにしても除却するにしてもその建物を他人が所有し若は他人が居住している場合はその所有者若は居住者と協議調はないときは任意の移転若は除却は出来ないから自然行政代執行法による強制移転若は除却とならざるを得ないであろう。この強制移転若は除却をするときは原則として従来の建物を換地予定地に移転し、若し換地予定地に従来の建物が入りきらないときは一部除却して移転さるべきであろう。
このようなことが予想される場合に於て建物収去土地明渡の訴の仮処分をなす場合に於て建物を執行吏保管とし現状不変更を条件として債務者にその使用を許す場合は換地予定地について債務者の立入を禁止する仮処分は格別な理由なき限り(例えば強制移転の場合建物の使用を禁止する理由)許すべきでない。若しこれを許すときは強制移転のとき前段の建物使用許容の仮処分が無意味になり不当に仮処分した結果を生ずるに至り、仮処分の目的を逸脱することになる。従つて本件仮処分決定はそれ自体妥当な仮処分でないものと思考する。
しかし違法な仮処分と雖も仮処分決定がなされている以上は仮処分決定としては有効であるから仮処分債務者はこの決定に従わねばならない。
而して仮処分決定後に於て従前の土地上の建物が換地予定地に行政代執行により移築せられたときは、その建物使用の必要の範囲内に於て右仮処分決定中の立入及使用妨害禁止の仮処分理由はその行政代執行による建物の移転したことにより事情変更したものと認むべきものと思考する。
ところで申立人等が居住の建物が申立人等主張の如く行政代執行により別紙第二目録記載の土地の一部に移築せられたことは甲第一乃至第四号証乙第五号証により認められ、又現在に於て仮処分債務者たる申立人等が仮処分命令に服従しようとするときは居住の建物を使用することが出来なくなり、従つてその建物に於て営業することが出来なくなる(この点争がない)ことは明らかであるから、この建物使用を許している以上建物使用の必要の範囲内に於て仮処分理由の事情変更がありたるものと認めこの建物使用の範囲内に於てそれに適応する如く仮処分決定を変更するを相当と認める。
而して申立人等の右建物使用の必要の範囲は別紙図面斜線部分約九十三坪四合二勺であることが甲第四号証により認められ、その余の部分は不必要と認められる。
被申立人は申立人等の住民登録、配給登録のないこと及他に家屋店舗、資産の存在することを主張しているが前述の如く仮処分理由の仮処分決定後の事情変更による取消申立であるから、建物の使用を許容している以上は被申立人の主張は理由とならない。又被申立人は本件土地上に新建築することを主張しているが、建物が行政代執行により移築されている現在、右土地上に建物を建築することは出来ない筈であるからこれも理由たり得ない。
又仮処分に違反し申立人等が第二目録記載の土地を使用している旨主張しているが、これは被申立人の本件仮処分申請自体が不適当な仮処分申請でそれに基き誤つてなされた(乙第五号証によると昭和二十五年十一月二十九日換地予定の通知がなされ昭和二十七年九月二日強制移築せられているから、昭和二十七年七月二十二日本件仮処分申請当時は当然強制移転が予期せられていた筈であろう)のであるから、この点は被申立人としても左程深く罪むべきではないと思考するのでこの点も理由たり得ない。
以上の通りであるから申立人等の本件申立はその一部について理由があるから、それに相応するよう右仮処分決定の中申立人等に関する部分の主文第三項を変更することとし、申立費用の負担については民事訴訟法第九十二条本文第九十三条第一項本文仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各準用して主文の通り判決する。
(裁判官 山本実一)